OWN(以下、O) まず、浜崎さんのことを知らない方のためにも、簡単な自己紹介をお願いできますか?
浜崎(以下、H) TRASMUNDOというお店の店主です。一人でお店をやっていますね。
O TRASMUNDOって不思議な存在ですよね。HPもないし、結構謎な面も多いというか。ご自身ではどんなお店だと思いますか?
H 色んな人が色んな見方をしてくれているんだな、とは思うよ。でも平たく言うならば”カルチャーショップ”になるのかな。自分が出会ってきた人たちのアンダーグラウンド・シーンだったり、USEDの本や映像ソフト、服を通じての文化的側面であったり、あと10年前ぐらいに、MUSIC CAMP,INCという音楽レーベルの宮田さんと知り合った流れで、チカーノカルチャーをTRASMUNDOで紹介させてもらったりとか。だからカルチャーショップになると思う。音楽が取っ掛かりになることが多いかもしれないけど、その背景にあるカルチャーを知ることで、よりその音楽が好きになったりとか、その逆の流れで背景を深く知っていくこともあると思う。
O それはオープン当初から意識していたんですか?
H そういう意識は最初から何となくあったと思う。オープン当初は、自分の私物を大量に出して店で売り始めたんだよね。それが音楽だけじゃなくて本、映画、洋服もあったから、原型は変わっていないと言えば変わっていないね。そこから自分が共感した人たちの作る作品を扱わせてもらって今の店のスタイルになっていったという感じかな。
O お店のオープンは何年ですか?
H 2002年だね。だから今20年目になるんですよ。例えば、落合君はハードコアパンクがきっかけでお店に来てくれるようになったと思うんだけど、きっかけがヒップホップの人もいればテクノの人もいたりね。昔からフラッと来る近所の人なんかは本を求めて来てくれたりもする。洋服を見に来てくれる人もいて、それぞれのTRASMUNDOの捉え方があると思うんだよね。そういう意味でもカルチャーショップなんだろうと思っているし、色んな層の人たちと接していると思うよ。
O TRASMUNDOで取り扱うものに関して、浜崎さんはどういう基準で選んでいるんですか?
H 新譜に関して言うとだけど、基準と言うか、まず重要なこととしては自分が”知っているかどうか”ということと、関係性だね。もちろん自分の店に商品を置いていない人で、気になっている存在の人はいるんだけど。でも自分とその人に接点があるかどうかが重要なポイントでもあってさ。例えば、レーベルをやっているWDsoundsのマーシーやRCSLUMのソウタくん(ATOSONE)みたいに昔から凄く信頼している人たちだったり、店によく来てくれていて、理解し合っているアーティストたちがリリースしたり紹介してくれたものを基本的に扱っているということかな。そのことが新譜を扱っていく流れになる最初の出発点でもあったし。紹介者っていうのは俺にとって本当に超重要な存在でさ。その人が俺に話を振ってくれるっていうことは間違いないものだと思っている。お互いに個人として信頼関係があって、感覚を共有出来ていることが大切だなと思っているね。
O なるほど。紹介者からさらにまた新しい繋がりができたり。
H そうそう。アンダーグラウンドの魅力って、自分たちのペースでリリース出来る良さもあるからさ。で、自分たちの中で「コレ面白いね、格好良いね」とか盛り上がっていたら、また新しい繋がりができたりだとかさ。そういうのを何回も見てきたし、そこからブレイクしていった人もいるし。例えばなんだけど、昔のチカーノシーンのアーティストって実際にリアルタイムでものすごく人気があったかどうか未知な部分もあったりするでしょ。もちろんローカルの中ではスターだったと思うんだけど。でも、当時の60年代、70年代にリリースされた7インチレコードが後から次の世代に発掘されて再評価されて、現在のチカーノソウルの流れに繋がったりとかさ。そういうことが、身近なところで繋がっていった人たちの中でも常に起こっていて、新たな流れとなって意味がついていったりするのを肌で感じれるのは凄く面白いよね。後で若い世代の人たちが過去作品を探し求めて来てくれたりとかさ。継続していくカルチャーって重要だなと思うよ。
O TRASMUNDOは敷居が高いと言う意味ではなく、非常に信頼されているお店ですよね。お客さんからもアーティストからも。
H それは嬉しいことですね。アーティストやレーベルの人が常に良い作品をリリースして持ってきてくれるから本当に恵まれていると思うよ。俺はそれを自分なりにTRASMUNDOで常にプッシュし続けたっていうことから、そういう信頼関係が生まれていったんだと思う。でもまあ職種は違えど、そういうことっていろんなところでもあるんじゃないかな?例えば飲食店とかでもさ、「あそこの店は猛烈にウマい」って一部で噂になってて、それが局地的に広がっていって、知っている人たちが常に集まっているみたいな。
O 良い意味で原始的な広がり方ですね。
H そうだね。TRASMUNDOとしては原始的なことをやってはいるんだけど、時代性とか今何が起きているかは意識した上で自分のやり方を提示しているつもりなんですよ。だから頑固ジジイがかたくなにやってる店、とだけ思われるのはちょっと違うところも実はあったりするんだけどね。まあ頑固だけど(笑)。
O なるほど(笑)。では音楽シーンに関しての話ですが、もう何年も前から配信やサブスクの流れが来ていますよね。フィジカル作品を販売するTRASMUNDOとして何か思うことはありますか?
H 今はモノとしてカタチにしなくても自分たちの力でサッと世界に向けてリリースできるし、そういう流れになっていくのは当然だと思うよ。でもフィジカルの作品はカタチとして確実に残るし、モノとして作りたいって考えているアーティストや、それが欲しいっていう人たちが絶対数はいるからそこはあんまり気にしていないかも。あと、これは俺が年を重ねているからかもしれないんだけど、配信やサブスクだと自分の中での”咀嚼作業”がなかなかできないんだよね。確認作業は簡単にできるからチェックはするし、便利なのも凄く分かるんだけど、自分の身体にしっかり消化できないと言うか。配信されたものをCD-Rに焼いて店で聴いたりするとまた違って聴こえたりするしね。まあ結局は俺が古いタイプなだけなんだけど(笑)。
O 凄く分かります。僕もサブスクだと曲名やジャケを覚えられなかったりして、しっかり音楽を楽しめないので使うのは止めました。
H どういう風に音楽をチェックしたり、脳内で情報を整理したり、どう楽しんでいるか凄く気になるよね。そもそも向き合い方からして、もう違う次元の話になってる気もするしね。
O また、TRASMUNDOの大きな特徴として、DJのMixCDを大量に取り扱っているということがあげられると思います。
H そうなんだよね。実はこのMixCDというカルチャーに触れたことがない若い人たちがここ何年かで増えてきてもいて。これは店でたまに話をしてみるとわかっていったことなんだけど。だからもっと伝えていきたいな、とは思ってる。東京や各都市の重要なDJ、音楽家たちの作品だからさ。
O TRASMUNDOにいると感覚が麻痺しますけど、膨大な量のMixCDがリリースされていますよね。
H そう。これは俺自身も結構興味深いなと思っていて。所謂CD-R文化と言うか。ちょうど店を始めた頃か、そのちょっと前ぐらいに、石田さん(ECD)が『最近のライブ』というCD-Rを販売していたのが身近だと先駆けだったんじゃないかなと、ふと思うことがあるね。2001、2002年くらいからかな?もう少し前かもしれない。そこからRAW LIFEの1回目があって、アンダーグラウンドシーンで活躍する若いDJたちがたくさんのDJ Mixをブワーっとリリースしていった感じかな。あの頃よりリリース量は多少減ったのかなとは思うけど、身近なアーティストたちはずっとMixCDをリリースし続けている。やっぱりMixCDというカタチにしていくのが好きな人も多いと思うし、俺も思い入れがあるカタチだしね。あと名刺代わりに人に渡せたりも。
O その時代を象徴するようなMixCDがあったり。
H そうだね。その時々で何を想ったり考えたりしたかを選曲した音楽に乗せていたりすると思うから、その時代の空気感みたいなものは凄く感じるよね。俺自身も人の作るMixCDを聴くのが凄く好きで。誰かが作った曲を選んで収録しているのに、セレクトした人にしかできない解釈や音楽の捉え方が見えてくるのが面白くてさ。曲の良さやその曲が持っている重み、メッセージとかを踏まえた上でストーリーを作っていくDJたちは凄く格好良いよね。そのDJはどんな考えでこの曲を選曲したんだろう?とか、そこに込められた思想や想いが感じ取れる作品が好きなんだろうね。まあ聞いていろいろと想像するのって楽しいじゃん。恥ずかしげもなく良く言ってしまうとロマンチストとも言えるのかもしれないけど(笑)。でもこの感覚は誰しもあると思うんだけどね。
O 間違いなくロマンチストだと思いますよ(笑)。また、ここ数年のTRASMUNDOの大きな流れとして、チカーノソウルのムーブメントがありますよね。どういった流れからチカーノソウルを扱うようになったのですか?
H 凄く簡単に言うと、MUSIC CAMP,INCの宮田さんという存在があったから。宮田さんもカルチャーとしてチカーノ文化をとても大切にしているし、それを日本で正しく紹介したいっていう気持ちがある人。宮田さんは西海岸のチカーノカルチャーで、俺は東京を中心としたローカルのアンダーグラウンドカルチャーの紹介という意味では、地域性が違いはするけどやっていることや気持ちは同じだと思っているんだよね。この話は宮田さんともしたことがあるし、お互いにそれをリスペクトしてる。これはとても大切なことだったね。
O 浜崎さんと宮田さんの中で、共通する何かがあったからこそ、一緒に盛り上げることができると。
H そうだね。宮田さんが紹介してくれたチカーノ文化を、俺は身近な人たちやお客さんに接続させていく役割をしたいというか。
O TRASMUNDOと親交のあるアーティストや、お客さんにもチカーノソウルと言うカルチャーが数年前から入ってきました。そこからアーティストの方々はそれが作品にも反映され始めましたよね。
H それは多分あったと思う。単純に音楽として素晴らしいし、反応してくれるだろうな、とは思ってたから。あと、チカーノのシーンと身近なシーンはどこか通ずるものがあってさ。それは場所や環境は違えど、見ている世界が近いと言うか。みんな自分たちの周りにある文化や、仲間の存在を凄く大切にしたりとか、置かれている状況から今の社会に対して思っていることとかね。そういう共通点があるから、より心に響くところがあるんだと思う。
O めっちゃ納得しちゃいました。では、お店を続けていて嬉しく思うことがあったら教えて欲しいです。
H 今まで言ってきたことと通ずるんだけど、やっぱり人との出会いかな。店をやっている以上、外に出ることが限られてしまうけど、そんな中でも今だに面白い人たちとの出会いがあるのは本当に嬉しいよね。
O 出会いってやっぱり場所ありきですもんね。
H そうだよね。そういう意味でも場所はやっぱり残していきたいかな。あと、例えばTRASMUNDOで誰かを落合君に紹介したとして、それがきっかけで後に何か新しいことが始まったりする可能性もあるじゃん。
O 僕の場合はすでに何件かありますね(笑)。
H そうやって人が繋がっていくのも見ていて凄く嬉しい。あと、お客さんがTRASMUNDOに通うようになって、新しい音楽やカルチャーに興味を持ってくれるようになるのは純粋に嬉しいよね。
O TRASMUNDOで古参の常連さんって誰になるんですか?
H SUNDAYS BESTの横瀬くんとか。しばらく会ってない時期ももちろんあったけど、オープン当初から20年ぐらい知ってる(笑)。
O そうなんですね!知らなかったんでビックリしました(笑)。あ、そう言えばOWNの話をしてなかったんで、少し聞かせて頂いて良いですか?
H そうだよね、OWNのサイトに載るんだもんね(笑)。
O そうなんです(笑)。浜崎さんには、OWNのLOOK BOOKにコラムも寄稿して頂きましたし、ローンチパーティにもDJとして参加して頂きました。浜崎さんから見て、OWNがスタートするということはどう感じましたか?
H そもそも落合君のことは昔からよく知ってるし、知っている間柄の人が何かを新しくスタートさせるっていうのはやっぱり嬉しいものだよ。協力できることはしたいし、一緒に盛り上げたいしさ。あと個人的にOWNのフレームで老眼鏡を作らなきゃな、と思ってる。最近さらに本とかメールが読めなくなって、めっちゃ疲れる時が増えたんだよね(笑)。
O 是非作りましょう(笑)。では最後にインフォメーション等ありましたらお願いします!
H 9月18日に「晴れたら空に豆まいて」でチカーノ短編映画の上映会をやります。宮田さんと自分でトークとDJもやりますので、お時間のある方は是非。
【INFO】
晴れたら空に豆まいて映画祭番外編
TOKYO SCREENING
短編映画『ATOMIC CAFE』、『SOUL OF LIMCOLN HEIGHTS』
ロサンゼルスの音楽と文化、リトル・トーキョーとチカーノ・バリオを舞台にした知られざる物語2編(字幕付)
9月18日(土)OPEN 17:30/SCREENING 19:00
Adv 2,000円/At door 2,500円
晴れたら空に豆まいて 03-5456-8880
MUSIC CAMP,Inc 042-498-7531
TRASMUNDO
東京都世田谷区赤堤4-46-6
03-3324-1216