OWN INTERVIEW CONTENTS Vol.29  / 谷ぐち順(FUCKER / Limited Express(has gone?) / 自立生活支援 谷ぐち介助クラブ / LESS THAN TV)

OWN INTERVIEW CONTENTS Vol.29 / 谷ぐち順(FUCKER / Limited Express(has gone?) / 自立生活支援 谷ぐち介助クラブ / LESS THAN TV)

OWN(以下、O) まず、谷ぐちさんの自己紹介をお願いします!

谷ぐち順(以下、T) フォークシンガーのFUCKERとして活動しています。それとLimited Express(has gone?)でベースも。音楽活動はこんな感じで、あと障害のある方の自立生活をサポートするヘルパー派遣事業所、「谷ぐち介助クラブ」の管理者もやっています。

O 自分の世代だと、谷ぐちさんと言えばやっぱりU.G. MANのイメージが凄く強くて。CHARMとのスプリット盤『SOME SECRET』、4thアルバム『AH...GOOD』前後はライブもよく観に行っていましたし。なのでバンドマンとしてのイメージが凄く強かったんですが、 いつからフォークシンガーとしての活動をスタートしたんですか?

T 旅から帰ってきてからなので、何年くらい前なんだろう?息子が今高校生なんですが、ちょうど言葉を喋り出した頃だった気がします。

O なるほど、じゃあもうソロ歴約15年くらいですね。

T うわっ、そんなになるのかあ。無駄に長い(笑)。

O いやいや(笑)。で、個人的な感想になるんですが、FUCKERのアルバムって、その時々の谷ぐちさんのライフスタイルをリアルタムで表現しているな、と思っていて。

T あぁ、確かに。その場での思い付きって言うかその場しのぎな感じではありますが(笑)。

O なので今回のインタビューはニューアルバム『ハードコア フレンドシップ フォーエバー』の全曲解説インタビューができたらと。

T マジですか!ありがとうござます!

O では早速お願いします! 1曲目が「FUCKER口上委員会」です。

T "良い老害と悪い老害、できれば後者でありたい"って歌っているんですが、後者じゃなくて前者ですね。単純に歌い間違いです(笑)。

O マジすか(笑)。

T 録音している時に全然気付いてなくて(笑)。でもまあ老害ってだいたい悪いでしょ、選択の余地なし!みたいな。自分もいつの間にか老害問題にぶち当たる年齢になってしまいましたね。でも現役の現在進行形ではありたい、と思っている。そんな歌です。

O では次が「入れ歯(下)モーゼスタイル」。

T 歌詞の通り、新年早々入れ歯が真っ二つに割れたんですよ。一年の計は元旦にありって言うじゃないですか。だからこれはめっちゃ良いぞ!と思って。

O それ、良いんですか(笑)?

T これは今年めっちゃ良いぞ!みたいなテンションに。しかも入れ歯が波のようなフォルムに見えて、2つに割れた感じがモーゼの十戒みたいで。で、1番の歌詞では神、宗教について歌っていますね。ほら、統一教会的なものとか政治と癒着の強い宗教とかはファックオフなんだけれども、何か自分の好きなものがあると良いよね、それが心の拠り所になるから良いよね、っていう内容。2番の歌詞は千歳船橋にあるフリースペース「こんにちは!誰でもスペース発信基地ゆうじ屋」のオーナーの実方裕二さんと話した内容から着想を得た感じで。ゆうじ屋では、音楽シーンでバリバリ活動しているアーティストとかに並んで、障害のある方もカラオケとかで出演しても良いよね、っていうコンセプトがあるんです。本当にフラットで、誰でも出演できるっていうのが凄く良くて。さらに言っちゃえば、演奏する人と観に来てくれる人もフラットで良いんじゃないかと。だから俺もステージ上で絶対にライブやらないんですよ。

O あ!だからいつもフロアで!

T そうなんです。だからこの曲の歌詞にありますけど、布袋寅泰が「ステージの俺は無敵で無限」って言っていたんですが、自分の考えはそれの真逆。ロックスターの否定だけじゃなくて、隔てる壁っていうか、ステージがなければそこに集まっているだけで最高だよな、っていう。この考えはU.G. MAN時代の"アンチ楽屋"スタイルに近いかもしれないですね。

O アンチ楽屋を掲げていたんですね(笑)。

T そうそう。絶対に楽屋に入らず、フロアに機材置いてフロアで着替えて、フロアでずっとライブ観て、自分の出番もフロアから出て行ってフロアに帰ってくる。それを欠かさずにずっとやっていたんですよ。

O 知らなかったです!

T 今でも基本アンチ楽屋なんだけど、子供ができてから楽屋の大切さが分かりました(笑)。

O (笑)。次の3曲目が「中学生」。谷ぐち家を描いた映画『MOTHER FUCKER』の時って、息子の共鳴君は何歳でしたっけ?

T 映画の時が小学3年生かな。今はもう高校生になったんだけど、これは中学生の時に作った曲ですね。ほんとムカつくんですよ(笑)。YUKARIに見せてもらった写真があって、新しい制服を着ている写真だったんだけど本当に嬉しそうで。自分からしたら進学ってこんなに嬉しいものだっけ?とか思うんだけど(笑)。

O 次が「FUCKER友だちいない説」。何て物悲しいタイトルなんですか(笑)。

T 実際にライブハウスのフロアで、結構ポツンと一人ぼっちになることが多いんですよ。YUKARIにも「あんた友達いないよね」って言われたし。DMBQの(増子)真二もパートナーに同じ事を言われたらしい(笑)。石田(ECD)さんもそんな感じでしたよね。さらに、もう若い人たちと影響を受けたものとか、聴いてきたものが全く被ってない。だから話が合わない。マイナスの意味じゃなく現実として。そんな歌です(笑)。

O 友達いないと言いつつ、次の曲はタイトル曲でもある「ハードコア フレンドシップ フォーエバー」。

T "最近友達がよく死ぬ"って歌っているんですが、これはちょうどIIZAWAさん(BASTARD/JUDGEMENT/BUZZY大和町バンド)が亡くなったタイミングだったので。IIZAWAさんの死に方って、言ってしまえば自然の摂理とは逆じゃないですか。でもあの人の生き様の中でああいう死に方になったワケだから、あえてそれも自然の摂理だろう、と歌っていますね。

O なるほど。IIZAWAさんとの印象的なエピソードなどありますか?

T 単純にBUZZY大和町バンドの大ファンだったし、IIZAWAさんもFUCKERの事を好きだと言ってくれていましたね。平山さん(STINKY RECORDS/谷ぐち介助クラブ)が下北沢でバーをやっている時にFUCKERでライブをやらせてもらったんですよ。その時にIIZAWAさんが観に来てくれたんですが、自分の顔と30cmくらいの距離で観てくれていましたね。マジかよ……と思いましたが、ハードコアの人が好きな真剣勝負的なやつだなって思って、超気合い入れてライブしたら、メッチャ良かったよ!と言ってくれました(笑)。

O 最高です(笑)。ちなみにこの曲はMVも公開されましたね。

T このアルバムのレコ発を柴又の矢切の渡しでやる予定だったんですが、雨で中止になっちゃって。出演する予定だったDEATHROのメンバーがヒマだということで家に遊びに来て、じゃあMVでも撮っちゃいますか!みたいノリでやりました。DEATHROがVHSで撮影をやってくれて。最高でしたね。

O では次が「ex.札幌」。札幌パンクシーンの錚々たる面々とのエピソードの数々が歌われていますね。これは全部実話ですよね?

T 基本的には全部実話なんですが、1箇所だけ盛っちゃってるところがあって。KOちゃん(SLANG)がスーパーの中でザンギを勝手に食べ始めてたっていう歌の部分なんですが、本当はイカフライです。北海道っぽさを強めるためにザンギに変えちゃいましたね(笑)。

O (笑)。しかも8分超えの大作ですね。札幌シーンの歴史が感じ取れて素晴らしいな、と。

T ノスタルジックな曲って自分には微妙かなと、思っていたんだけど、まあたまには良いか、みたいな。KOちゃんには一応、許可を取りました(笑)。

O 次が「デストロイ健常者社会」。介助者である谷ぐちさんの目線ですね。

T もう当たり前のように健常者用に社会ができているんで。介助の仕事をしていると感じたり気が付くことって多くて。あとほら、よく炎上とかしてるでしょ。

O ああ、SNSとかで?

T そうそう。車椅子ユーザーのお店への入店、飛行機への搭乗、無人駅とか映画館とか。ヘイトコメントが凄く集まるじゃないですか。そういうのを移動中とかに読んじゃうんですよね。めっちゃくちゃ頭にくるんですけど、なるべく全部読むようにしてるんです。やっぱり健常者用に社会の構造ができていて、それが当たり前だからそういう発想になる。じゃあどうすれば社会は変わるのか?それを考えて、行動していかなければいけない。そういう決意的な意味も込めた曲ですね。自分への自戒も込めて。今って"差別は良くないよね"という考えが一般化したけど、根本の部分では全然変わってないと思う。車椅子で電車に乗ったら、家から出て来るんじゃねえ!って怒鳴られた30年前とあまり変わらない。結局皆んな溜まった鬱憤を弱い者へ差別というカタチでぶつけているだけだと思います。

O この流れで8曲目の「介助 オブ トゥデイ」と介助ソングが続きます。"入浴、食事、パチンコ、風俗、たん吸引"と当事者さんと介助者の日常が歌われていますね。

T 泊まり介助の後にライブとか、ライブ終わったら介助とか、介助は本当に自分の生活の一部なんで。仕事なんだけど、生活というか。あと、"たん吸引"は介助者じゃないと聴き取れないらしいです(笑)。"探求"ですか?とか言われたり。

O なるほど。専門用語的な(笑)。"幸せとか不幸とか他人が勝手に決めんじゃねえ"って歌詞もめちゃくちゃ素晴らしい。

T やまゆり園の障害者殺傷事件を起こした植松が「障害者は不幸しか作らない」と言っていたけど、なんでお前が勝手にジャッジしてんだよ、って話で。人には色んな価値観があるし、それぞれの幸せな生活がある。介助をやっていると、そんな当たり前の事に直面する機会が本当にたくさんあって。介助で当事者さんと一緒にファミレスに行く。で、飽きもせずに、いつも同じメニューを本当に美味しそうに、幸せそうに食べている。そんな当たり前の幸せを、他人の物差しで測って欲しくないんですよ。

O 次が「入れ歯と平和」。入れ歯の歌が2曲入っているアルバムって珍しいですよ(笑)。

T 確かに(笑)。

O この曲は弾き語りスタイルではなくてピアノですね。

T 実はアルバム毎にピアノの曲を入れるようにしているんです。今回のピアノはわがつまさんという方に弾いてもらいました。金子由里奈さんの映画の予告編を観たら、すっごく良い曲が流れていて、それがわがつまさんの曲だったんです。それで紹介してもらって。これはFUCKER版「Imagine」なんです(笑)。平和について歌いたくて、だけど歌詞が全くゼロの状態だったので、困った時の入れ歯頼みで何とか仕上げましたね(笑)。

O "入れ歯がどんどん朽ち果てていく"というフレーズがありますが、これって入れ歯あるあるなんですか(笑)?

T いや、入れ歯が真っ二つに割れてからバランスが崩れて上も割れたりして、どんどんバラバラになっていく。歯医者に行けばいいものを、途中で行くの辞めちゃって。だから入れ歯の欠けたピースと平和のピースのWミーニングになっています。

O 良いオチ(笑)。次が「TKC is the BEST」。"TKC"は僕も所属させてもらっている"谷ぐち介助クラブ"の頭文字ですね。この曲では仕事上での怒りが歌われています。"金目当ての事業所は全部ぶっ潰す"とか、谷ぐちさんの立場的に言っちゃって大丈夫なんですかね……?

T ダメですね(笑)。でも、"谷ぐち介助クラブの管理者 谷ぐち"ではなく、FUCKERとして歌っているんで。自分たちは、"自立生活支援"っていう看板を掲げて活動しています。どんな重い障害があっても、好きな地域で自由に暮らすことができる。そんな事って当たり前のはずなんだけど、それが全然実現できていないんです。特に知的障害と呼ばれているの方の自立生活なんて全然進んでないですよ。40〜50代の方でも実家か、良くてグループホーム、あとはほとんどの方が都外の入所施設で暮らしています。隔離されているんですよね。僕らは事業所を立ち上げてまだ3年ですが、入所施設から1人、グループホームから2人、地域に出て、そこで暮らすサポートをしました。悲しいことに、現状はまだまだレアケースなので、そんなケースを1件でも作ることができると、かなりインパクトがでかいんです。「そんなことできるんだ!?」と。

O そいういった谷ぐちさん達の動きによって、少しずつ世間の常識を変えていけたら良いですよね。

T そもそも選べないっていうのがおかしいんですよね。一生施設に閉じ込められるのが当たり前だった世の中を、自分の生きているうちに少しでも変えることができたら良いな、と考えています。そうすれば絶対に後に続いていくハズだし。偉そうなこと言ってますが、この曲はビジネスライクな事業所に対するただの愚痴ですね。ようやく制度が良い方向に進んだと思ったら、そこにたかる人たち。金になるぞ、みたいな。逆に金にならないと思ったら事業所都合で断ったり。アンタ達は福祉をやっていて、当事者さんの生活をこれだけ間近で見てるのに何も感じないか?みたいな怒り。当然ムカつきますよね。

O 谷ぐち介助クラブとスタンスが違い過ぎる、と。

T 目の前のことを必死でやってるだけです。いま自分たちが手を引いたらこの人の人生は終わる、みたいなシリアスなケースばっかりなので。売り上げ?そこじゃないだろって。U.G. MANの頃に"I HATE MONEY"ってTシャツを作っていましたし、そのスタンスは変わってないのでそういう金目当ての事業所へのアンチテーゼです。今は自分の事業所を立ち上げて、たくさんの人たちが一緒に働いてくれているから収益も大きくなっているけど、その分色んな所に還元していけたら良いな、と思っています。

O 谷ぐち介助クラブには当然ながら谷ぐちさんのPUNKの精神が宿っていますね。

T やっぱりPUNKSの美学ってありますよね。高校を辞めて札幌に出て、よーちゃん(bloodthirsty butchers)や増子さん(怒髪天)達と出会った。そこで、PUNKSというこんな最高の生き方があるんだ!と感銘を受けて、自分もPUNKSとして生きようと思った。さっき話した「ex.札幌」の時代です。こんな生き方でもいいんだ、って(笑)。

O そしてラストが「シャバにいて欲しい」。

T THE FOOLSの伊藤耕さんが服役中に亡くなってしまって。耕さんは自分で選んでああいった生き方を貫いていたけど、とは言え、懲役とシャバを行ったり来たりしてたから、単純に周りの人たちと一緒にいれる時間が少なかったと思うし、最後は権力に殺されてしまったようなもんだし。とても複雑な気持ちです。だから刑務所用語であるシャバと、現世という意味での娑婆、ふたつの意味を込めて歌にしてみました。

O 耕さんへの歌だったんですね。2番の歌詞はまた別の方ですよね。

T 2番は多摩で自立生活をしていた目時達也さんの事ですね。彼も亡くなってしまったんですが、目時さんとの出会いって自分の中では本当に大きくて。いわゆる強度行動障害と呼ばれている方で、日本で10本の指に入る困難なケースなんて言われてました。バリバリに暴れると聞いていたし、自分も腹を括って、GAUZEの「限界は何処だ」じゃないけど、覚悟して立候補したんですね。でも、いざ介助に入ってみて本当に意外だったのが、"ただの人の生活"だったんですよ。本人が持っている特性が、社会の中で折り合いがつかない部分が多くて障害になっている。ただそれだけだったんです。

O ああ、なるほど。それで歌詞に"これは一例、ただの一例"と。

T そうなんです。ただの人の暮らしの一例に過ぎないじゃないか、と。だけどその一例こそが尊重されるべきその人の生き様とか人生というか。あと、目時さんの告別式に、昔関わっていたっぽい支援者の方が来て、「達也、必死こいて生きてなあ、必死こいて生きてなあ」って言ったのがめちゃくちゃ自分には刺さったんです。自分は介助者として必死になって関わっていたので気付かなかったけど、この生きづらい社会の中で一番必死に生きていたのは本人だよな、と。その言葉が刺さり過ぎたので、歌詞に入れさせてもらいました。

O 全曲解説どうもありがとうございました!あと、今作から何曲かサウンド的にも変わりましたね。

T そうなんですよ。従来のアコギ弾き語りに限界を感じていて、なにか新しいことを取り入れなきゃと思いGUILDのトラベルギターにディストーションというのを思いついて。物欲が全然ないタイプなんですけど、スマホにGUILDの広告がめっちゃ表示されて、まんまと欲しくなってしまって(笑)。それを買うために、家族を説得する理由としてサウンドを変えたって感じですね。あとghettosのglicoさんから譲り受けたバッテリー駆動のアンプも導入したので、いつでもどこでもライブができますね。この前もツアーの移動中に車内ライブをカマしました(笑)。あ!物欲がないと言っておいてアレなんですが、OWNのこの眼鏡(#03)はお世辞抜きでめちゃくちゃ格好良くて、久々に本当に欲しい!と思いましたね。数年前に何回も試着させてもらってカラーを決めて、もう一生これしか掛けない!っていう気持ちですね。予備でストック分も欲しいくらい。

O 嬉しいです!では最後に今後の活動やインフォメーションがありましたらお願いします!

T ある人が、社会運動の中で友情が足枷になる的なことを言っていたんです。詳しい内容は忘れましたが、友情が邪魔になるよね、みたいなニュアンスで。でも自分の中で絶対にそれはないな、と思っています。俺は活動家でも何でもないただのPUNKSなんで、友達関係を越えるものってないし、フレンドシップこそ基本。だから自分の中で一番大切なものはハードコアフレンドシップ。ハードコアフレンドシップがある場所や、ハードコアフレンドシップで呼んでくれる人がいるところにCD持って、新作できましたよって会いに行く。そのついでにライブもやる。それで1年かけて全国を回って、来年のさくらまつりでハードコアフレンドシップツアーのファイナルができれば良いな、と思っています。まずは5月に北海道に行きます。

Main Photo:HARUCHIN

Other Photo:小野由希子

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