OWN INTERVIEW CONTENTS Vol.27 Meta Flower / 久保田 樹(ラッパー / 彫刻家)

OWN INTERVIEW CONTENTS Vol.27 Meta Flower / 久保田 樹(ラッパー / 彫刻家)

OWN(以下、O) では、まず簡単なプロフィールというか、自己紹介をお願いします!

Meta Flower(以下、M) Meta Flowerです。彫刻家とラッパーをやっています。本名が久保田 樹です。実は今、活動する時の名前を本名に変えようか悩んでいたり。と言うのも、自分のやっている彫刻家としての活動が、ラッパー名の方と噛み合わなくなってきたなあ、という感覚があって。なので、名前に関しては今後どうするか悩んでいるところですね。

O KOHHも本名にして活動再会したりね。

M ですよね。ECDが本を書くときは石田義則でしたし、今里さん(struggle for pride)はDJのときにDJ HOLIDAYじゃないですか。僕は頭でっかちなので、自分の中で何んとなくハマりが悪い名前のまま活動しているのが嫌なんですよね。

O なるほどね。活動ごとに名前を変えたりとか?

M そうなるんですかねえ。今更"aka"とかダサいですよね(笑)。 

O どうだろう(笑)。では、まずラッパーとしてのキャリアを教えてもらえたらと。

M 自分が東京藝術大学に入ったのが、三浪してるんで21歳の時で。神奈川から東京に引っ越すタイミングで、以前から連んでいたクルーのLSBOYZの奴らと合流して遊ぶようになったんですよ。またLSBOYZで連み出した頃、僕は彫刻家として入ってるのかな?って言うか単純に仲が良いから一緒にいるっていう感じでしたね。

O じゃあ、最初はラッパーとして参加していなかったと。

M そうですね。ですが、LSBOYZのリーダーであるYoung Ceeがちょっと旅に出なくてはいけないということになって。で、彼から「俺がラップできない間はお前が土壌を固めといて。頼むわ」と言われて。それがきっかけでラップをやり始めることになりました(笑)。

O 半ば強制だ(笑)。

M ホントそんな感じですよ(笑)。まあでも良い機会だしやってみるか、と。そこからエミシ君(rkemishi)がビートを作っていることを聞いて、レコーディングの仕方を教えて!と言ってラッパーとしての活動をスタートした感じです。で、エミシ君と1週間くらいでデモ曲を6-7曲作ったのかな?ミックスとかマスタリングっていう言葉も知らない素人だったんですが、そのデモCD-Rも100枚くらい配ったり売ったりして。既に彫刻家としての活動はしていたので、"マテリアル"と"メイト(友達)とリアル"を掛け合わせたWミーニングで『メイトリアル』というタイトルでした。

O そこからライブとかもしたり?

M そのデモ作品にエミシ君がフィーチャリンングで入ってくれていたおかげもあって、エミシ君のライブに出させてもらったり。そこから自分のステージも増えていきましたね。ラッパーとしては本当に良い走り出しができたと思います。でも10代からラップやってる周りの奴らからは軽くイジられましたよ。「あいつラップ始めたっぽいよ」みたいな(笑)。peedogには「お前とは曲やらないから」とか。そのセリフ一生忘れねえぞ、って感じですね(笑)。

O (笑)。ラップを始める前に好きだったり影響を受けたアーティストは?

M それこそ地元が藤沢なんで、DLiP RECORDSは聴いていました。あと、一浪中だった10代の終わりの頃はECDの作品も好きで聴いていたので影響を受けていると思います。

O なるほど。去年、ソロ1stアルバム『The Priest』をリリースした訳だけど、反響とかはどう?

『The Priest』LINK

M 多分そんなに売れてないかな、って感じです(笑)。

O いやいや(笑)。個人的な感想になってしまうけど、しっかりとしたメッセージ性があって、尚且つ赤裸々な面も曝け出しているアルバムなのかな、と感じたよ。

M 自分の中にあるものに決着を付けたかったんです。だからフィーチャリングもナシで全曲1人でラップしました。自分の中の毒を出し切る行為みたいな。なので、もうこれからはガナるようなラップはできるだけしたくないんですよ。もう毒は出し切った気がするので、ネガティヴなことも言いたくない。今後はFebb君じゃないけどスムースなラップとかできる様になってみたいです。ポジティヴなことや、格好良いことを言っているラップスタイルにチェンジしていくのも良いかな。僕の中では一旦これまでの自分に区切りを付けることができた作品なような気がします。

O 吐き出している内容を含め、制作も結構しんどかったのかな、と思ったんだけど。

M はい、そうですね。結構精神的にしんどかったです。今後はそれをポジティヴに昇華して次に進みたいですね。

O いつき君にとって、この1stソロアルバムはどんな仕上がりになりましたか?

M ラップの内容は当然ですが、自分的には彫刻家としてのこだわりも反映させたいので、CDが売れないと分かっていてもスリーブやフィルムを付けて、アートワークにもこだわりました。がっちり作り込めたし良かったな、と思います。フィジカル盤は3000円で発売したんですが、ネットで「高い」とか言われたりしました(笑)。

O では、今後、音楽のフィールドではどんな活動をしたいですか?

M 自分がラッパーとしてどこまでやるのか、っていうことには正直悩んでます。自分のラッパー像も考え直すべきかタイミングなのかもしれないですね。あと、アンダーグラウンドシーンの力が低迷していって、国力も落ちて、更にコロナ渦でクラブなどの現場が1回リセットされたんじゃないか、と自分は考えていますね。今新しい世代の若い子たちがわーっと勢いを持ってる中で、 自分がマイクを持ってステージに上がる理由って何だろうと?と考えたり。なので音楽のフィールドでは自分でイベントをやって、若いアーティストを育てる側に回ったりすることができたら面白いのかもしれない。

O 出る側としての引き際というか。

M はい。もちろんまだ早いとは思いますけどね。まあ単純に彫刻の方も忙しくてバイブスが落ちているだけかもしれないですが(笑)。やっぱり辞めたくないし諦めたくないんだけど、自分のいる場所といるべき場所みたいなのが少し曖昧な気がしていて。これは自分の中の感覚的な話になってしまうんですが。なので、今回のソロアルバムを出すことができて、一区切りできたことは良かったですね。次を目指せるので。  O それはラッパーとして成長したってことなのかな?

Mそうなんです。成長だし、自分的には実は物凄くポジティヴなことなんです。もう暗い内容の歌を作らないアーティストになるのかな?とか考えたり。DJ KOOみたいになるのかな、とか(笑)。

O 極端すぎ(笑)。

M (笑)。でもポジティヴな曲の方が絶対に良いパワーを与えられることが多いと思いますよ。世の中にこれだけネガティヴなことが多い状況下で、耳の中までネガティヴなのはちょっと……。今はそんな考えです。今は悪い時代が更新され過ぎていて、どうカウンターを打ったら良いかが見えにくいですね。でもまあ自分が今後どんなラップをしていくのかが楽しみだったりもしています。

O では、いつき君のもうひとつの顔でもある彫刻家としてのお話も聞かせてもらえたら。最近はどんな活動がメイン?

 

M 爆破のエネルギーで作る彫刻が話題になったことで、その作品が一番有名なんですが、「歌詞を書く」という概念を捉え直す作品を制作しています。


O その作品は今までいつき君が作ってきた爆破の彫刻とは別で?

M そうなんです。爆破の作品に関しては、去年一昨年と色んな場所で展示させてもらえる機会を頂いて。なので、爆破の作品に関してはライフワークとして続けて、今は別の作品を作っているんです。あの爆破はアンダーグラウンドであり、何かを解放するみたいな考えで制作をしていたんですが、それがいよいよ物質的に彫刻と音楽を混ぜるということをしてみようかな、と。

O 言える範囲で大丈夫ですが、どんな作品になりそうか教えて欲しいです。

M ラップの出発点っはやっぱり詩、音声ですよね。1950-60年代に打ち出された概念に、"具体詩"というものがありまして。"文字を形として読む"という。更にコンクリート・ポエトリーというものもがありまして、これは言葉の意味を無くし、形として見せる、みたいな。それと彫刻を繋げてみようという作品を計画していますね。

O ごめん、理解が追いつかないんだけど(笑)。

M そうですよね、いきなり熱く語ってしまってすみません(笑)。じゃあ、それは何をどうするかというと、あなたの人生とは?という質問に対して言葉を3つ選ぶ。僕の場合だと、音楽、彫刻、泥酔とかになるのかな?更にそれを6つの漢字に分けるんです。音/楽/彫/刻/泥/酔、になりますね。それを隣の人に渡して、その1文字から文章にしてもらうんです。他人に自分を潜在的に象徴する文字から勝手に文章を制作してもらうことで、別の言葉が返ってくる、という。

O 凄いね。思考を文字とか記号みたいにするんだ。

M そうです。更にその時の声も録音するんです。人の声って周波数帯で分けられるんで、その詩を読んでもらうとフォルマントという母音の周波数が出るんです。更に周波数の低い順にF1、F2と分けられる。それらを数値化して人間の声の重なる部分が振動を起こすと砂を動かせる……言葉で説明するとかなり意味深で難しい話になっちゃうんですが(笑)。

O そうだね(笑)。

M ちょっと映像を見せますね。

O なるほどー!周波数ごとに出てくる形も違うと。

M そうです。周波数帯を色々変えると、このぐらい複雑な図形が浮かび上がるんですよ。これらを彫刻と見立てて、その人たちの声が振動によって立体になってこぼれ落ちた砂が積もることでやがて「島」ができていく、っていう作品を構想しているんですが……。

O 進行具合はどう?

M まだ実験作業の段階で止まってしまっていますね。ちょっと難し過ぎる(笑)。詩のことも勉強しながら、声の分析も勉強もしています。更に振動に使う工業用バイブレーターのことも勉強しなくてはいけないので。

(※インタビュー自体は3月に行ったものになります)

O 音楽の活動もありながら、そんな新しいことをやっているのは全く知らなかったよ。

M 子供も生まれて、新居のこともあってバタバタしているタイミングで。最近は酒を飲んで酔ってもテンパってますね(笑)。

O (笑)。でも、今までの爆破の作品とは別で、新たな作品にチャレンジする姿勢は凄いね。

M 新たな試みですね。ラップほどの直球なメッセージはないんですけど、彫刻は長い時間をかけて伝わっていくものなんじゃないか、と思っているんです。ポリシーとか、秘めたメッセージみたいなものが。そういった作品を作りながら、美術史の文脈で自分は本当はどこから来て何々に影響を受けたので、だから今こういう作品を作っているんです、って言えるようにならないといけないな、と考えていますね。

O その意識は昔から考えていたこと?

M いや、アメリカに行ってからです。芸術家を名乗るなら、芸術家としての自分のルーツをきちんと語れなければいけないということをアメリカで強く感じました。何年代の誰々に影響を受けたから、私はこういう生まれ育ちでこういう立ち位置にいるから、この作品ができました、っていうことをしっかり語れて一人前という価値観なんですよ。

O そんな理詰めというか、そんな感じなんだね。作家はもっと直感的な考えで活動しているのかと勝手に思っていたよ。

M もちろんそういった感覚的な面もありますよ。美術史っていうものを、大きな1本の木に例えるとしたら、根っこを起元前として。例えば宗教絵画とか。そこから芽が出て大きな幹に繋がっていくイメージですかね。だから自分の様な現代美術も、そこから枝分かれした花の部分かもしれない。そういう概念があるので、しっかり芸術家としてのルーツを語れるようになりたいんです。

O アメリカで受けた影響が、より自分というものを知るキッカケになったんだ。

M どんな芸術も、さっき言った木の一部であるという現実からは逃げられないということですね。僕みたいにガキ丸出しでドーン!と爆破をやってやろうぜ、で面白いモノができました。それが結構色々な人に注目されました。だからこそ、その作品に対してちゃんと説明できなきゃダメなんだな、っていう責任感が芽生えました。自分が作り出したものに対してきちんと説明して、これはこういう理由でこうなんです、っていうことをある程度自分で語れてようやく評価が付くというか。


O 今後、アメリカとかの海外でも作品を発表したいな、みたいな展望はある?

M 特にニューヨークは資本主義なんだけど、芸術に関する物事も凄い速度で動いている。それを痛感した時に、これはアメリカで戦ってみたいな、と思いました。1945年に太陽が落ちてきた。そしたらある日から爆薬を地面に埋めて爆破した形を太陽と読んで崇める日本、という現代とは似て非なるSFドラマ的なストーリーを自分の爆破の作品で作りたいんです。日本とアメリカの関係性など色々な意味を込めて。それをニューヨークに持って行くことが、爆破の作品のゴールなんじゃないかな、と。

O そういったストーリーを作ったりするのは、ラッパーとしての力が活きそうだね。

M そうかもしれないですね。 オチの付け方とか込めたいメッセージに関してとかはラッパーとしての人格が後押ししてくれますね。でも、彫刻家としてこういった大きい課題が出てしまうと、ラップやってる場合じゃないのかな、とは若干思ってしまいます。単純に仕事しながらラップしてる人の仕事が忙しくなっちゃったバージョンというか。優先順位が難しいところですね。

O でもいつき君自体がどんどん唯一無二な存在になっていく気がするよ。じゃあ、ちょっと作品関係の話は以上にして、ここからはファッションのお話もできればと。最近のいつき君のファッション的ブームはあったりする?

M ホント今アイウェアにめちゃくちゃ興味があるんんですよね。少し前にもドイツの「KUBORAUM」というブランドの物を買ったりしました。あと、ジョニー・デップの『Public Enemies』という映画があるんですが、その作品の中でジョニー・デップが着用しているペンタゴンタイプの眼鏡も格好良いな、と思って観ていました。

O OWNでは#09の2トーンフレームの物を選んでくれたね。

M そうですね。フレームの曲線美と言うんですかね?それも綺麗だと思いました。あとブリッジにシルバーのパーツが使われているじゃないですか。僕はアクセサリーとかも好きで付けるんですが、シルバーが好きなのでそれらにもバッチリ合うだろうな、と。

O いつき君的にどんなシチュエーションでアイウェアを付けたい?

M ベタですけどドライブとかデートとか。そういう格好付ける時に掛けたいですね。アイウェアもアクセサリー感覚で楽しみたいですね。気分も良くなりそうな気がします。僕の場合、彫刻の作業中は寝巻きみたいな格好が多いので、差を付けたいのかもしれない(笑)。

O では最後にインフォメーションなどあったら。

M 5月31日から6月2日までの3日間で、学生時代からお世話になっていたKUMA財団というギャラリーで個展をしました。新作発表ではありますが、一生完成しない気がするのでProcessという展示タイトルにしました。あと、何曲か歌詞を書こうとしている楽曲もあります。ラッパーの活動速度は一度見直すかもしれませんが、リリースはあるので楽しみにしてもらえたらと。

【INFO】
instagram @metaflower_w.f

【撮影協力】

DANCING MOOD

instagram @dancingmood_shimotakaido

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